承:決心
『ノイズ』の隙間をかいくぐり、妖精達の村らしき所にたどり着いた頃には
辺りは既に真っ暗になっていた。
これからどうなるのだろうか。
幸いなことに今晩は両親とも帰らない。
しかし明日の朝には学校がある。
ほんのさっきまで平凡な生活を送っていたのに、こんなことになるなんて。
「何とか無事脱出できましたね」
やや憔悴した様子の彼女が近付いてくる。
妖精たちは皆、フラフラになっているようだ。
『電波』とやらの影響なのだろうか。
私はほとんど平気だったのに。
「無事でよかったです」
平気そうな私を見て彼女がほっとしたように言う。
「なるほど、人間には影響を与えないようですね」
納得したという表情だ。
「マルタンも無事で何よりです」
私が乗ってきた黄色い妖精を撫でながら言う。
この子の名前はマルタンというらしい。
改めてよく見ると愛嬌のある顔つきをしている。
つぶらな瞳がかわいい。
「突然のことでしたが、これで状況は理解していただけたと思います」
「ええ・・・」
「それで、今後のことですが・・」
そうだ、それが今の私にとって最も重要なことなのだ。
「落ち着いたら元に戻ることが出来ると思います」
「・・!」
ハッとして見つめる
「あなたがこうなった原因には心当たりがあります。
落ち着いたら必ず元に戻します」
そして少しの間を置いて言葉を継ぎ足す。
「この騒動は・・・じき終わらせます」
強い決意を秘めた彼女の言葉に嘘はなさそうだった。
「実は『ノイズ』の発生源はある程度分かってきているのです。
今回の事で確信が持てました・・・」
彼女の話は続く。
「発生源は多分、東の湿地帯です。
我々にしてもこのままではドン尻なのです。
これ以上はもちません」
そして彼女は驚くべき結論を口にする。
「少し休んだら、有志を募って発生源へ向かおうと思っています」
(・・・・・!)
これは最後の手段、強行突入をしようというのだ。
「あなたはここで待っていてください。
ここはまだ安全なはずですから」
そう言って彼女は準備の為に去っていった。
私は他の妖精達に混じって休息を取ることになった。
(お腹が空いた・・・)
落ち着くと生理現象が前面に出る。
家の冷蔵庫には夕食が用意されていたのかもしれない。
でも今は帰れない。
私は元に戻れるのだろうか。
もしかして、ずっとこのまま・・・
こんな孤独と不安、とても耐えられそうにない。
周りを見渡すと色んな外見をした妖精達。
なんとなく年寄りや子供らしいことは分かる。
不思議とその感情の起伏は伝わってくる。
その様子は見ているこっちが痛ましくなる程で、
泣いて、怯えて、途方にくれて・・・
(本当に、深刻な状況なんだな)
何しろ自分の住んでいる世界そのものが危機に瀕しているのだから。
仲間が混乱に陥っていく様も見てきたのだろう。
たぶん私よりも強い不安に耐えている。
私は『電波』を浴びても平気なのだ。
ここに避難している必要はない。
発生源に乗り込む有志を募る呼びかけが聞こえる。
私はここに居てもいいのだろうか。
(私は・・・どうしたら・・・)
緩慢な眠気に思考が停滞する。
いつの間にか浅い眠りに落ち込んでいた。
騒がしさに目を覚ます。
中央の広場に有志らしき大勢が集まりつつある。
(・・・・・)
ぼんやりとその様子を眺めつつ、
だんだん頭がはっきりしてくる。
やがて集団が動き始める。
その瞬間、私は立ちあがって駆け出していた。
「待ってください」
意を決して近づいていく。
「私も・・・行っていいですか」
先頭の彼女は一瞬戸惑う。
「『ノイズ』に強いあなたが居てくれたほうが我々は助かりますが・・・いいのですか?」
「はい、是非」
うなずく私に、全て了解したように微笑む彼女。
「ありがとうございます。迷惑をかけます」
有志の中からマルタンが顔を出す。
『電波』に強いというマルタンが参加している(させられている?)のは当然のことだった。
「では、行きましょう。
今日でケリをつけます」
こうして真夜中の進攻が始まった。
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