転:逆風の中で
『ノイズ』の薄い地帯を見つけ小休止に入る。
皆、疲れてはいるようだが気力は衰えていない。
随分と長い時間飛んできた。
もう夜明けも近い。
ここまで来たら発生源はそう遠くないはずだ。
「あなたには感謝しなくてはいけません」
近づいてきた彼女が言う。
「『電波』に弱い我々だけではここまでは来れませんでした」
「あ、いや、そんなことは・・・」
私の参加がどれだけ役に立っているかは考えに無い。
ただ私は気持ちに押されてやっているだけだ。
何の為にこんなに気張っているのか自分でもよく判らない。
「明け方には解決できるかもしれません。
もう一息ですね」
やっと生まれた希望的観測に安堵の表情を見せた。
私も休息を取ることにする。
食事もせずに一晩中飛び回っているのだから疲れていないわけがない。
ウトウトと眠りこけるマルタンに寄りかかり目を閉じる。
最後の突入への決意が固まってきた頃・・・
めいめいに休息を取っている一隅がざわめき始めた。
ざわめきが徐々に広がっていく。
それにつれ、さっきまでどちらかといえば好意的だった雰囲気が一変する。
明らかに攻撃的な視線が私に向けられる。
一瞬、恐怖さえ感じた。
(何?いったいどうしたの・・・)
混乱した頭で考える。
断片的な言葉の内容を継ぎ合わせ、事態をのみこもうとする。
どうも数年前にも似たような現象が発生し大騒ぎになっていたようなのだ。
その原因は人間の世界でのある工場の事故が引き金だった。
その事故なら記憶にある。
確かまだ私が小学生の頃だった。
以前と場所が近いのと、状況も似ている点が多いと言っているのだ。
発生源に近づくにつれ原因について様々な憶測がされて、
また人間の所為ではないかという話になっていったのだろう。
妖精たちすべてが人間の言葉を話せるわけではない。
しかし、雰囲気で分かる。
人間である私に対する明らかな敵意が感じられる。
誰もが思っていて口にしなかったことが
逼迫した状態で表に出ただけなのかもしれない。
しかしこの急変は酷くショックだった。
このままここに居る訳にはいかない。
居場所も無い。
追われる様に隅に行き、隠れるようにうずくまった。
恩ぎせがましくするつもりはないが、私だって被害者なのだ。
こんな話はないじゃないか。
もう止めようか、とも思う。
少なくとも積極的な姿勢で参加できるのだろうか。
しかし、それでも、
そんな状態でも、
やはり最後までしなければいけないとも感じていた。
こんなに白い目で見られている状況で、
どうして私は一生懸命に動こうとしているのだろう。
人間のしたことへの償いのつもりなのか・・・
それとも自分が助かりたいだけなのか・・・
いつの間にか、マルタンが側に擦り寄ってくる。
「慰めてくれるんだ・・ありがとう・・」
こんなことでも随分と心が安らぐ。
少し経って、隅で落ち込んでいる私に彼女が近づいてくる。
「隣り、かまいませんか?」
「あ・・・はい」
他の皆がこのような感情に駆られることは彼女には初めから分かっていたのだろう。
数年前のことを彼女はどう思っているのだろうか。
「決して皆が、人間に悪い感情を持っているわけではないのです」
彼女は言葉を選ぶように話し始めた
「数年前にそのような事件があったのは事実です」
「・・・・・」
私には言葉が無い
「確かにあの時も大変でした。
私の家族もその時に消えてしまいました・・・」
「・・・!・・それは・・・」
ハッとして顔を上げた。
しかし彼女の表情に特に責める様子は無い。
「いえ、そんなことはもういいのです」
押し殺したような様子で続ける。
「色々と調べているうちに解ってきました。
我々と人間とは決して異なった存在ではないことが・・・」
「・・・?」
「この頃は我々の中でも随分と勝手なことをしています。
人間にも迷惑をかけているのですよ」
目を伏せて、自虐的に口元を歪ませる。
「これは人間だけとかいう問題ではないのです」
口調が次第に高ぶっていく。
「我々と人間は一緒に暮らしているのです。
どちらか一方の問題などということはありえません」
意を決したように私を振り返る。
「今の皆の態度を許してください。
皆、感情を整理できないのです」
「ええ・・・判ります」
「以前のことがある限り、皆の感情を消すことは出来ません。
また嫌な思いをさせてしまうかもませんが・・・」
遠慮がちに付け加える。
「それでも、最後まで・・・付き合ってくれますか?」
振り向いた私と目が合う。
他意の無い懸命な瞳、
私はこくりと肯く。
「・・・・・」
彼女は無言で私の手を握る
「ありがとう。私も救われます」
少しづつ西の空が白ずんできた。
残された時間は少ない。
「さあ、あと一息です。
早く片付けてしまいましょう」
〜ステージ3(明け方の突入)へ〜
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