エピロ−グ:青空に願いを




エネルギーの玉を集め終わった頃には本船の整備も終わろうとしていた。
「もうすぐ終わるよ。エネルギーも十分回収できたようだし、じきに戻れるだろう」
メーターを見ながらのお父さんの言葉に、二人で満面の笑みを浮かべるのだった。

2回目はさすがに帰れなくなるかと思ったけど、これで帰れる。
みんなにまた会える。
家で待っている家族、
同じクラスの連中、
クラブの仲間、
そして、ともちゃんの顔が浮かんだ。

程なく準備は整った。
「クウ、ミウ」
お父さんが二人を呼ぶ。
「もうすぐ出発だ。準備してきなさい」
二人は出て行く。
私には聞きたい事があった。


「あの…お母さんを、さがしてるんですか?」
聞いちゃいけない、と思っていた。
でも、幼い兄妹を見てて我慢できなかった。
「すいません。こんなこと聞いちゃいけないんでしょうけど…あの子達を見てて気になって」
「ん…? ああ…そうか…」
お父さんも質問の意図を理解したらしい。
「いや、いいよ。初めに話しておくべきだったかな」
気分を害することなく答えてくれた。

「妻は、訓練を受けた専門の宇宙飛行士だったんだが…」
穏やかに話し始める。
「この星域で行方不明になったんだ」
(あ……)
半分予想していたとはいえショックだった。
胸が痛くなった。
「捜索したけど見つからなくてね、そういう事故は稀にあることなんだが…」
戸惑うように言葉が途切れる。
「遭難がはっきりしていれば諦めもつくんだろうけど
 こんな宙ぶらりんの状態では、子供にも何と説明していいものか」
かける言葉がなかった。
こんなに辛い話があったなんて。
「とても諦められるものではなくてね。
 何処かで生きてるんじゃないかと、こうして探しに来てしまう」
苦しそうに視線を落とす。
「実はいなくなる直前にすれ違いがあってね、あまりいい別れ方をしていないんだ」
私は無言で聞いていた。
「もしそうじゃなくても悲しくない訳ないんだが、事ある毎に思い出してしまうのは辛い。
 今でも後悔してるよ」

お父さんはゆっくりと顔を上げる。
遠くを見るようにして大きな息をついて言った。
「大切な人は、失ってからでは遅いんだ…」
ドキリとした。
まるで、自分のことを言われたようだった。

気配を感じて振り返る。
扉の所にクウお兄ちゃんが立っていた。
お父さんも気付いたようだった。
「クウ、どうした? 準備は出来たのか」
「………」
無言のまま立っている。
「クウ…」
不審に思ったお父さんが近づいていく。
その時、ポツリとつぶやいた。
「僕、知ってるんだ」
「……?」
「母さんはもう帰ってこないって、死んじゃったんだって」
「……!」
お父さんは絶句した。
そのまま駆け込んできてお父さんに飛びついた。
「もう、いいよ。こんなことしなくていいよ。
 母さんのことはもう……だって……
 父さんいつもボーッとしてるし、他の事しててかまってくれないし、
 ミウも寂しがってるし、僕だって……こんなの…
 だから…もう……」
最後の方は言葉になっていなかった。
ただ泣きじゃくっていた。

いつの間にかミウちゃんが入り口から不安そうに覗き込んでいた。
気付いたお父さんが手を差し出すとトタトタと寄ってきてしがみつく。
やがて一緒にしゃくりあげ始めた。
「家に帰ろう……。父さん…」
少し落ち着いたクウお兄ちゃんが言う。
お父さんは二人をただ無言で抱きしめていた。
………………
………

3人は無事に出発した。
私も無事に帰ってきた。
これで一件落着。
でも、私の心に残ったもの、気付かせてくれた大切な気持ちがあった。


私は宿に向かって走っていた。
頭の中でお父さんの言葉が繰り返し流れていた。
『大切な人は、失ってからでは遅いんだ…』
決心していた。
(ともちゃんに、謝らなくちゃ…)

そのうちに前方に小さな光が見えてくる。
宿まではまだ距離があるはずだった。

懐中電灯を持ってこちらに歩いてくる人影、
何か一生懸命探しているようだった。
じきに距離は縮まる。
向こうもこちらに気付いて走り寄ってくる。
案の定、ともちゃんだった。

「バカ!」
私を見つけるなり怒鳴りつける。
「こんな遅くまで何やってんのよ! 心配したんだから!」
逆光で顔はよく見えないが声が震えていた。
「うん…ごめん…」
素直に謝る私。
「もう…帰るよ…!」
そう言うと彼女は感情を隠すように背を向けて歩き出そうとした。
「ともちゃん! あのね…」
私の言葉に立ち止まる。
「今まで、ごめんなさい」
彼女の肩がピクリと動いた。
「せっかく楽しみにしてた修学旅行だったのに、意固地になっちゃって、
 私、ともちゃんのこと大切に思ってるからこのまま仲違いしちゃうなんて嫌だって思って、
 私、お調子者だし頭もよくないけど、でも、こんなの嫌だし、
 小さなけんかは何回もしたけど、こんな口もきかないなんて、ないよ。
 色々ひどいこと言っちゃってごめん、許してくれなくていいけど、もう仲直りしよ。
 また一緒に、屋上に忍び込んだり、学校抜け出したり……
 あと木に登って怒られたりもしたよね、それから……
 あれ…何言ってんだろ…」
一気にまくし立ててよく分からなくなる。
「それで、あの…」
「もう、いいよ」
彼女は背を向けたまま、つぶやく様に言った。
「私も、悪かったから……」
恥ずかしがりやの彼女の精一杯の言葉だった。



「あー、たいくつーーー」
「んーー、暇だねーーー」
「ごめんよー、私のせいでーーー」
「いいよぅ、いつものことだしぃー」

私たち二人は宿の部屋でだれていた。
部屋に忍び込もうとした際にあっさりと見つかった私たちは
今日の自由時間、自室謹慎となってしまったのだった。
許可を取れば散歩程度ならかまわないとのことではあったが。

二人でトランプしててもそんなに暇がつぶせるわけもなく、
こんな田舎宿周辺に見るものがそうあるわけもなく、
案の定この有様なのであった。

(うぁぁぁぁ……もう、狂いそうだよぅ……)
禁断症状に逆らいきれず、フラフラと立ち上がる。
「散歩、行ってくるね……」
「どうぞー、ご自由にーー」
もう何回目なのか分からない、気の入らない応答をして部屋を出る。
先生の部屋に一声かけて宿を出たものの何が変わることもなく、
平凡な道に出て、平凡な町中を通り、平凡な駅に着くのであった。

ベンチに腰掛け空を見上げる。
これ以上ないほどに気持ちよく晴れわたった青空。
こんなにいい天気なのに……いい、天気なのに……うぅ…。

駅前の広場は観光に出掛ける家族連れが多い。
その中で、不安そうにキョロキョロしている幼い兄弟がいるのに気付いた。
親とはぐれてしまったのかな?

瞬間、あの兄妹と重なった。
強がりで妹思いのクウお兄ちゃん。
寂しがりやで泣き虫のミウちゃん。
今頃どうしているのか。
無事に家に帰れたのだろうか。
一夜明けると夢のようだが、頭のこぶが自己主張し続けている。

何だかほっとけなくて寄って行こうとした時、遠くから私を呼ぶ声がした。
振り返るとともちゃんが道の向こうで慌てた様に手を振っている。
「くぼまきーーーっ、重大ニュースだよーーーっ!」
その場に心を残しながらも戻らねばいけなかった。

宿に戻るとこの上なく重大な知らせが待っていた。
玄関に入ると出掛けたはずの連中が何故か戻ってきていて、笑顔で私に言う。
「くぼまき、遊びに行こう」
「え……でも、謹慎中じゃない」
横のともちゃんを見る。
「先生に掛け合ってくれたんだよ、あんまり酷すぎるって。
 十分反省してるから、許して欲しいって」
「あんまり時間ないけど、いいよね。
 近場でも面白いとこたくさんあるからさ」
後ろから先生が顔をのぞかせて、いい友達を持ったな、
時間までには戻れよ、と言って部屋に戻っていった。

「……」
私はしばし呆然としていた。
でも状況が飲み込めてくるにつれ、どんどん顔が緩んでくるのが分かった。
「わーーーん、嬉しいよぅ、ありがと、ありがとう…」
思わす抱きついていた。
「ちょっと、こら、大げさだって。
 それより早く準備、準備」
「うん、準備してくる!」
部屋に向かって駆け出した。


「では、しゅっぱーつ!」
宿の前で歓声を上げて駅に向かう。
抜けるように晴れわたった青空がまぶしい。相変わらずのいい天気だった。

駅前の広場にさしかかると、さっき見かけた兄弟が両親に囲まれ嬉しそうに笑っていた。
探し人を無事に見つけたようだった。
楽しそうな様子に頬が緩んだ。
(よかった……)

「どうしたの、早く行くよ」
「あ、うん。行こう」
私は改札口に駆けていく。

クウお兄ちゃんとミウちゃんはもうお母さんには会えないのかもしれない。
こんな悲しいことはないはずだ。
でも信じたい。
二人は決して孤独ではないだろうから。
私と同じ様に、気遣って支えてくれる人がいるはずだから。

二人が悲しみを乗り越えて強く生きていけるように、
現実を受け入れて将来を切り開いていけるように、
くじけることなく前を向いて歩いていって欲しい。

高々と晴れ渡った青空の下で、そう願わずにはいられなかった。

〜おわり〜


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